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「やつし」のあわいに住む

夫婦とその両親のための住まいで、住み手が営む菓子工房と販売スペースを併せもちます。敷地の中だけで完結するのではなく、周囲の環境や人の営みとの関わりの中で、そのあり方が立ち現れる住宅を目指しました。

敷地は平行な辺をもたない不整形な四角形で、北側は幅員のある道路に面し、その他の三方には建物が迫っています。道路側へ大きく開くことが自然に思える一方、向かいの住戸からの視線も受けます。そこで、前面道路側一方向に開くのではなく、隣地との隙間や駐車場、隣家越しの公園への抜けなど、周囲に点在する余白との関係を結び直し、住まいとまちの距離の取り方を考えました。

1階の菓子工房は、道路側の木製建具を介してまちと接し、玄関を通してピロティへとつながります。車を移動すると、玄関や駐車場は客席となります。店舗を住宅に付け加えるのではなく、住宅の縁にある場所を生業やまちとの接点として見立て直しました。住居部分は、3層分の吹抜けを中心に、大きな階段室のように各室を配置しました。仕上げや光、風が室同士を連続させるよう検討しました。また、幅の広い3階の廊下やゆったりとした踊り場など、それぞれの場所をあらかじめ一つの用途に固定せず、周囲の環境や暮らしとの関係に応じて複数の働きを担い、状況に応じて読み替えられ続けるように構成しました。

打ち合わせを重ねる中で、建主から「やつし」という言葉が出ました。完成された形式を崩すことで、もとの価値を別のかたちで表すというような意味だそうです。これは、周囲の環境や日々の活動との関係から、それぞれに別の意味や働きを引き出すこの住まいにも重なっています。日々の暮らしは、環境との関係に応答するものでありたいと考えています。建築をそれ自体で完結したものではなく、周囲とのつながりとして捉えることで、隣り合うものの意味が変化します。その関係をつくりたいと考えました。
用途:住宅
所在地:東京都板橋区 
竣工:2025年 
主要構造:木造
担当:須藤剛 山崎百々美
構造設計:金田泰裕|yasuhirokaneda STRUCTURE
撮影:長谷川健太

Principal use: House
Location: Itabashi-ku, Tokyo
Completion: 2025
Structure: RC, Wooden
Project team: Tsuyoshi Sudoh, Momomi Yamazaki
Structure design: yasuhirokaneda STRUCTURE
Photo: Kenta Hasegawa