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□3つの階層による木造住宅の普遍化と固有化
東京郊外のミニ開発により4分割された敷地に建つ木造住宅の改修である。一般的な木造住宅は間取りと構造が1対1で、完成時の間取りのために構造が用意され、更新することが考慮されていない。形と構成が一致した状態には余白がなく個人が建築から引き剥がされているようだ。また状態は悪くないのに、仕上げと設備機器だけがとりあえず更新された改修前の状態は、手入れされながらも忘れ去られ放置されているようだった。
今後更新しやすい状態にするために、柱梁を必要に応じて補強や撤去した「既存の軸組」、内部の筋交を取り払うための「外周部の耐震補強」、柱梁から独立した個室や水廻りの「薄い間仕切りによるボリューム」の3つの階層による簡潔な構成とした。
この構成に対して、土間のようなモルタルの床に配置したボリュームの間に、ドライエリアのようにグレーチングをかけることで内部に外部性を持ち込んだり、モルタルの床下空間を地形のように掘り込んだ段差をベンチとしたり、解体した軸組を家具に使用するなどした。内部と外部、構造と家具など、様々な要素を連関させながら作ることで、本来一致していた構成と現れにズレが生まれ、そのズレによって個人が建築に関与できる手がかりをつくることを意図している。加えて、それぞれの仕上げや素材は、建主の好みの黒皮鉄やモルタルの質感と、ラワンベニヤや耐震補強の構造用合板の塗装色を合わせるなど、素材の質感を残しながら、構成と建主の好みや趣向のような個人の偏差のズレをチューニングするように色彩やトーンを決定している
引渡し後、建主により、床を堀り込んだベンチにクッションを敷きソファが設えられたり、庭に自ら選んだ樹木を植えたりと、手を加えながら住み始めている。構成と現れのズレ、そしてそのチューニングにより都市や建築や暮らしに永く関与し続けることができるのではないか。そのために、一般的な木造住宅が、社会資源としての普遍性と、個人の偏差による固有性を同時に獲得し、それぞれのズレをチューニングする全体と部分のリノベーションの手法を模索している。
用途:住宅
主要構造:木造
建築面積:60.45㎡
延床面積:109.30㎡
竣工:2017年
構造設計:金田泰裕|yasuhirokaneda STRUCTURE
撮影:長谷川健太

usage:house
structure:wood
building area:60.45m²
total floor area : 109.30m²
completion:2017
structure design:yasuhirokaneda STRUCTURE
photo:Kenta Hasegawa