私たちの自宅兼事務所と併せ、新たな地域拠点として飲食店、店舗などを併設した住宅です。
敷地がある目白駅周辺は、かつて武家屋敷や作家のアトリエ付き住居が多く立ち並ぶ地域でした。しかし現在では、目白駅に隣接する目白通りからわずか20メートルの範囲だけが商業地域で、それ以外の大半は住宅専用地域となっています。この用途地域の区分により、街の構造が分断される一因となっています。また、店舗が可能な物件が少ないため、賃料が高騰し、大型チェーン店は増えましたが、個性を感じられる店舗は少なくなりました。
この住宅は、目白通りから1本入った第1種低層住居専用地域に位置しています。長年この地域で暮らしてきた私たちは、家づくりの際、店舗と事務所を併設した兼用住宅を計画し、街に欲しいと思う場所を自分たちでつくることを考えました。当初は、他の事業者にテナントとして貸し出し、住宅ローンの返済に充てることも検討しました。しかし、貸し出すことで私たちが望む場所から遠ざかる可能性があるため、これまでの仕事や個人的なネットワークを活かし、自分たち自身で店舗を運営することにしました。こうして生まれた店舗は、住居と一体化した「住む場の延長」として機能し、住人である私たちが日常的に利用できる場となっています。
このような取り組みを通じ、用途地域が規定する街の構造にささやかな変化をもたらすことを目指しました。さらに、これを参考にする人が現れれば、街全体に新たな循環が生まれる可能性もあります。
店舗は飲食店として設計し、私たちが手がけたカフェを運営する方に立ち上げを手伝っていただいたり、同じく設計を担当した酒屋からワインを仕入れるなど、自邸を通じて関係性を再構築し、設計者と発注者という一方向的な関係を超え、複数のつながりが交差するネットワークを生み出しながら、カフェや店舗を併設した小さな複合施設はCaDという名前で営業しています。
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https://www.instagram.com/cad_mejiro/)
計画にあたっては、容積率を最大限に活用しながら、周辺環境の形態的文脈や隣地の隙間、開口部、高さ関係などを考慮して開口部やテラスを配置しました。また、工事で発生した廃材や旧宅で不要となった素材を再利用することで、循環型の建築を実現しました。
この住宅は、積層構造でありながら複数の出入り口や階段を設け、多様な使い方ができる設計となっています。例えば、事務所部分を個室として利用したり、打ち合わせスペースを店舗として活用するなど、内部空間を柔軟に変化させることが可能です。
さらに、この住宅では「住み開き」のような他者の関与を超え、住み手のネットワークを通じた自律的な生活圏を形成しています。「住む」という行為を中心に、生活に関わるさまざまな要素を横断的に再編することで、暮らし方そのものを問い直し、新しい住宅のあり方を模索するきっかけとなっています。