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子育てを終えた夫婦と社会人の子のための住宅の改修である。敷地は前面道路を境に市街化区域と市街化調整区域に分かれ、南西側には住宅地、北東側には農地が広がっている。建主はもともと敷地内に住んでおり、この家を建主の親から引き継いだことをきっかけに住み替え改修することになった。
そのため庭仕事や農作業、時折訪れる来客の応対など長い時間をかけてこの地で形成された暮らし方を継承しながら、成熟した家族を受け入れるための住宅の形式を模索した。建主からは、それぞれの個室と客間、そして日々の営みを受け止めるスペースが求められた。しかしそれら諸室の面積を合計しても、既存の床面積の半分程度であった。

そこで、既存の外壁や屋根の外皮を補助線に諸室をヴォリュームとして積み上げて、その隙間を路地(廊下)や土間とした。かつての土間は、室内にありつつ土足で入ることができ、炊事場や台所があり北側の暗く寒い場所であった。ガスや水道が普及し台所が居室と同一の空間として内部に属することで、土間の内外を繋ぐ機能の有用性が前景化してきた。前面道路から引き込まれていた敷地内の通路と連続するように明るい土間を配置することで、庭仕事や農作業といったいくつもの屋内外での活動を繋いでいる。
その土間から繋がる路地が行き止まりなく内部を貫通し、隣接する道路や敷地の裏側に接続することで、敷地の外から建物、室にいたるウチとソトの境界を弛ませたり結んだりしながら、拡張することを試みた 。

室のヴォリュームの開口は、プライバシーや路地や土間との関係性に応じて決定した。路地の床仕上げはヴォリューム内に滲み出させ、間仕切壁も構造壁の厚さも55mm程度と極力薄くした。それらの操作により、個を確保しながら内から外にわたる営みを繋いでいる。

内と外に継ぎ目なく続く営みの連なりに目を向けた。さまざまな境界を弛ませ、その両者を結ぶことで、建築としては手を付けない敷地の外側の捉え方をも更新し、この家族が築き上げてきた営みがさらに折り重なることで、より豊かなものになっていくことを願っている。
(新建築住宅特集2022年7月号より)
用途:住宅
所在地:埼玉県 
竣工:2021年 
主要構造:木造
担当:須藤剛+髙岩愛実
構造:yasuhirokaneda STRUCTURE
撮影:長谷川健太

Principal Use: House
Location: Ageo-City, Saitama
Completion: 2021
Structure: Wood
Project Team: Tsuyoshi Sudoh + Manami Takaiwa
Structure Design: yasuhirokaneda STRUCTURE
Photo: Kenta Hasegawa